動物病院

2005/11/08

世界的に珍しい小鳥のお医者さん⑤

飼い主の不注意が小鳥を病気にする

腫瘍ができたコザクラインコ、白内障のオカメインコ、喘息で鳴くことができなくなったカナリア、全身の毛が抜け落ちたセキセイインコ、「妻」に死なれて憂鬱病になった十姉妹など、小鳥の病院には、さまざまな患者さんが訪れる。

肝臓が悪くなると、爪の伸びが早くなる。爪が伸びすぎると、歩くことができなくなり、ケガの原因になる。
くちばしが伸びすぎると、エサを食べることができない。爪やくちばしは、病院で切ってもらうとよい。

首のまわりの毛が抜けるのは、ホルモンや甲状腺異常が考えられる。自分の毛を抜いてしまう「毛引き症」は、ストレスがたまった小鳥がかかりやすい。

飼い主が、せんべいやラーメンなど、味のついた食べ物を与えたため、水を飲みすぎて下痢をしたり、腎臓を悪くすることも多い。ごはんや食パンを与え続けていると、おなかの中にカビが生えることがある。

寒いからといって、水浴びではなく、「お湯浴び」をさせる人がいるが、羽の脂がとれてしまい、カゼをひきやすくなる。乱暴に扱って骨折をさせたり、熱湯に近づけてヤケドをさせたり、飼い主の不注意による事故も多い。

長時間、部屋の中に放している小鳥は、タンスの引き出しにはさまれて圧死するなど、事故に遭いやすい。
いずれも、飼い主は、かわいがっているつもりでも、飼育方法に大きな問題がある。

「小鳥の生態をよく理解して、小鳥の立場に立って、正しい愛情で接してほしい」と広瀬さん。

小鳥は、蚊に刺されたところが化膿しただけで、生命を落とすこともあるほど、繊細な生き物だ。

「小鳥が羽をふくらませて、かわいいなと思っていると、病気である場合が多い。小鳥は、体温を保つため、羽の間に空気を入れてふくらんでいるのです。止まり木の下にうずくまっているようなむときは、病状はかなり深刻です」と広瀬さんは指摘する。

広瀬さんが、高橋先生の遺志を継いで小鳥の病院で診察をするようになって、10年になる。グローバル動物病院では、犬やネコなどの小動物を診ることが多いが、小鳥の病院で、たくさんの小鳥とふれあっていると、「自分はほんとうに生き物が好きなのだ」と実感するという。

広瀬さんにとって、それは高橋先生に憧れて獣医師を志した、初心に還ることができる、貴重な時間なのかもしれない。

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2005/11/01

世界的に珍しい小鳥のお医者さん④

「高橋先生のような獣医師になりたい!」

広瀬さんが、高橋先生と出会ったのは、30年以上前のこと。

当時、たくさんの十姉妹を飼育して、繁殖に熱中していた広瀬さんは、高橋先生が書いた『小鳥のお医者』という本を読んだ。

「高橋先生と小鳥の飼い主さんとのやりとりが、診療日誌のように記されていました。小鳥という生き物を通じての、先生を信頼する飼い主さんとの心の交流に感動して、ボクも、高橋先生のよう獣医師になりたいと思いました」

思いきって、東京の高橋先生に電話を入れると、「夏休みになったら、小鳥の病院に遊びに来なさい」といってくれた。名古屋からひとりで上京した広瀬少年を高橋先生と千世夫人は、あたたかく迎えてくれた。

小鳥に愛情を注ぎ、どんなときも、全力を尽くして手当てをする高橋先生のもとには、北から南から毎日、小鳥を連れたたくさんの飼い主さんが訪れた。

多い日には100羽、少ない日でも50羽の小鳥が集った。診察室は、にぎやかな囀りが絶えなかった。「やさしい心を持った飼い主さんがたくさんいるんだな」と広瀬少年はうれしくなった。

高橋先生は、顕微鏡をのぞいたり、ホルモン注射をしたり、休む間もなく治療に打ち込んでいた。小鳥を見つめる真剣なまなざしに、広瀬少年の心は震えた。

千世夫人は、病院に連れて来られた小鳥を一目見ただけで、すぐにカルテを用意した。カラスなどの大きな鳥の治療をするための介添え、注射器などの用意、薬を飼い主さんに渡すのも千世夫人の担当だった。

診察の合間にも、問い合わせの電話がかかってきた。1日50本以上の電話がある日も珍しくなかった。

高橋先生と千世夫人は、昼食をとる時間もないほど忙しかった。しかし、常にほほえみを絶やさない2人の息は、ぴったり合っていた。

広瀬少年が驚いたのは、飼い主さんが「エサを食べない」と連れてきた小鳥でも、高橋先生がエサを与えると、必ず食べることだ。

おなかに水が溜まる病気のセキセイインコは、注射器でおなかの水を抜き取ったとたん、みるみる元気になった。

「腱はずれ」という小鳥に多い病気になると、歩くことも止まり木につかまることもできなくなる。高橋先生は、ばんそうこうで特製ギプスをつくり、小鳥の足を固定して治した。

高橋先生は、正しい小鳥の飼い方を飼い主さんにていねいに教えた。先生の話は明るくユーモラスで楽しいので、診察が終わってもなかなか帰ろうとしない飼い主さんが多かった。なかには、人生相談をしていく人もいた。

毎日、小鳥と小鳥を愛する人たちとのワクワクするような出会いがあった。

こうして、「高橋先生のようなすばらしい獣医師になりたい!」という広瀬少年の決意は、ゆるぎないものになった。

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2005/10/26

世界的に珍しい小鳥のお医者さん③

下半身不随を乗り越え病院を開業

小鳥の病院は、1962年開業というから、創業43年になる。

ニッポンで初めて小鳥のための専門病院を開いた高橋先生は、24年、東京・中野に生まれた。動物が大好きだった高橋先生は、中学時代から動物病院のお医者さんを志した。
 
東京獣医畜産大学専門学校(現・日本大学農獣医学部)卒業後、獣医師の資格を取得。東京都衛生局公衆衛生監視員として働きながら、いつか動物病院を開くことを夢見ていた。

公衆衛生監視員になって半年ほどたったある日、狂犬病の疑いがあった犬を解剖しているとき、左手の人さし指をメスで傷つけた。このとき用いたワクチンの副作用で、高橋先生は、下半身不随になってしまったのだ。

22歳から3年間、寝たきりの生活を余儀なくされた。「こんなにつらいのなら、死んでしまったほうがましだ」と思った。しかし、懸命にリハビリテーションに打ち込み、歩行器を使ってなんとか歩けるまでになった。

退院後、動物病院を開きたいという、子供の頃からの夢は絶たれてしまったような気がした。それでも、獣医師としての知識と技術を生かすため、小鳥に卵を産ませてヒナをかえし、それを小鳥屋に売る「巣引き屋」という仕事をはじめた。

当時は、ニッポンはもちろん、外国にも、小鳥の病気の治療法などを記した資料はなかった。高橋先生は、何百羽という死んだ小鳥の解剖を行って、病気やケガの原因を独自に研究した。

小鳥の命を守ることに無我夢中で取り組む高橋先生の評判を聞いて、病気やケガをした小鳥を助けてほしいという飼い主さんが、全国から訪ねてくるようになった。

動物病院に小鳥を診てもらいに行った飼い主さんが、「うちではわからないから、高橋先生のところに行ってごらんなさい」と紹介されてくることも多かった。

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2005/10/20

世界的に珍しい小鳥のお医者さん②

高橋先生の遺志を継いだ愛弟子

東京でも有数の高級住宅地として知られる田園調布。ここに、小鳥専門の「小鳥の病院」がある。ニッポン全国から、病気やケガをした飼い鳥を連れた、たくさんの飼い主さんが訪れる。

どの飼い主さんも、「うちのコは」「うちのピピちゃんは」と広瀬さんに語りかける。小鳥と心を通わせ、自分の子どものように大切に思っている。

毎日、小鳥の体調を細かく記した手帳を開いて、熱心に小鳥の状態を説明する人が多い。

よく「きのうまで何ともなかったのに……」というが、からだの小さな小鳥は、犬に較べて、病気の進行がとても早い。

エサの食べ方、飲む水の量、フンの様子、動きや鳴き声などを毎日観察して、ちょっとした変化を見落とさないことが大切だ。それだけに、常に小鳥の健康に細かく注意を払っている人が多い。

「ピピちゃん、よかったね」治療を終えた小鳥が入ったカゴを抱えて帰る飼い主さんの表情は、みんなうれしそうだ。

診察室には、世界的にも珍しい、小鳥の病院を創業した高橋達志郎病院長が描いたかわいらしい小鳥のイラストや小鳥の置物が飾られている。

「小鳥の治療の神さま」といわれた高橋先生は、残念なことに、いまはもうこの世にいない。1994年秋、がんに倒れ、天国に旅立ってしまった。

高橋先生が亡くなったとき、先生の愛弟子である広瀬さんは、「人間の都合ではなく、まず、小鳥の幸せを考えていた高橋先生の志を継いで小鳥の病院を続けたい」と高橋夫人である千世さんに申し入れた。

それから、広瀬さんは、横浜市内にあるグローバル動物病院院長として診察をするかたわら、毎週2回、小鳥の病院で代診をしている。

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2005/10/19

世界的に珍しい小鳥のお医者さん①

動物にとって、よい動物病院とは、どういうところなのか? 

今回訪ねたのは、最高の技術を誇る、由緒正しい小鳥の専門病院「小鳥の病院」。

そこには、小さな生き物の命を救うため、人生をかけた高橋先生と、その遺志を継いだ愛弟子・広瀬さんの物語があった。

全国に知られる小鳥の病院

飼い主さんが、診察室の真ん中にある一枚板の大きなテーブルにカゴをのせると、獣医師の広瀬学さんが、カゴの中に手を差し入れた。

やさしく包むようにして、カゴから小鳥を取り出すと、健康状態を観察する。広瀬さんの手のなかで、オカメインコのヒナはじっとしている。

顕微鏡でフンを調べて、寄生虫がいないことを確認すると、広瀬さんは、手早くエサをつくる。

卵の黄身や栄養になる薬をまぶした特製のエサに片栗粉を加え、それをアルコールランプの炎にかけて、ちょうどよいあたたかさにする。

背中に手を添えたヒナに、ピンセットで栄養たっぷりのエサをくちばしに近づけると、おいしそうに食べはじめた。

次は、同じオカメインコで15歳になるチー坊。発作を起こしてエサを食べなくなってしまったというチー坊のくちばしにチューブを差し入れ、エサを注入する。

小鳥は、非常に繊細な生き物だ。犬のように、一度にたくさん食べて、おなかに溜めることができないので、エサを食べなくなると、血糖値が下がり、急激に弱ってしまう。

そのため、エサを食べさせることが、大切な治療法のひとつなのだ。

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2005/10/13

上野動物園のお医者さん⑤

動物園の動物病院は、犬やネコなど、いわゆるペットの診療は行わない。

患者さんは、動物園で飼育されている動物たち。ライオン、ゾウ、カバ、キリン、カメ、ヘビ、ワニ、ダチョウ、フラミンゴ、ペンギン、サイ……種類も体の大きさまざまだ。

動物園以外動物でも、キジバトやカルガモなどの野鳥、キツネやタヌキなどの野生動物も、臨時の患者さんとして診ることがある。

成島さんの1日は、飼育係の人への「御用聞き」ではじまる。それぞれ担当する動物の健康状態、気づいた点、変った点などいか、訊いて回るのだ。午後は、動物の治療や手術に当てられる。

「腕を脱臼したゴリラの手術は、2本のプレートを腕に埋め込むため、東大獣医外科の先生方に来てもらって、7人がかりで8時間かかりました」というから大手術である。

手術は成功した。しかし、ゴリラが、ギブスを噛み切ってしまうので、そのたびに巻き直して、完全に治癒するまで半年くらいかかったという。

動物園では、キリンの赤ちゃんの誕生、ツルのヒナの世話、オラウータンの虫歯の治療、サイの注射、年老いたライオンの死、新しいエサの開発、繁殖技術の研究など、毎日、いろいろなことが起こっている。

「新しいことに出会い、挑戦できることがおもしろくたまりません」と成島さん。

子どもの頃から動物が大好きだった成島さんは、犬やネコなどの限られた小動物だけではなく、あらゆる動物の診療に関わるため、動物園の獣医師になろうと決意した。

しかし、動物園の獣医師の募集はたいへん少なかった。競争率10倍の難関を突破した成島さんは、1972年、上野動物園に飼育係として配属された。

最初の担当は、新装開園したばかりの子供動物園。気性の荒いラクダに咬みつかれたり、ワシの「脱走」騒ぎが起こるなど、「波乱万丈の動物園生活のスタート」だった。それから30年になる。

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2005/10/08

上野動物園のお医者さん④

動物医療の基本は絶対病気にさせないこと

動物の病気を発見することは、やさしいことではない。

なぜなら動物は、自分の体調が悪いことを「隠す」からである。食うか食われるかという厳しい自然社会において、熱があるからといってうずくまっていたら、かっこうの餌食になってしまう。

捕食動物が、いつ襲ってくるかわからない中で、敵に弱みを見せることはできない。少々体調が悪くても、「ポーカーフェイス」で一見元気そうにふるまうのだ。

足を骨折したツルを治療するため、捕まえようとしたところ、ツルは、骨折した足の先を地面について走って逃げようとした。人間ならば、激痛のあまり、その場にうずくまってしまうか、そのまま失神してしまうだろう。

体中に悪性腫瘍(がん)が転移して、悪化しているような状態でも、死ぬ間際までいつもと変らず、元気そうにしていることは珍しくない。

動物たちの痛みに対する抵抗力というか持久力、痛みに鈍いという性質は、厳しい自然界で生き抜くための大きな武器となっているのだろう。

人間の場合は、早期発見、早期治療が健康管理の基本だが、動物の医療では、「動物を病気にさせないことにエネルギーを注ぐことが大切」と成島さんは強調する。

そのため、それぞれの動物の習性に合った飼育管理を徹底している。

①飼育環境を整備して清潔に保つこと、

②食事と栄養のバランスを調整し、成長期や繁殖期のメスには食事量を増やして、タンパク質・ビタミン・ミネラル類が不足しないようにする、

③魚や昆虫を主食とする動物は、回虫などの寄生虫に感染しやすいので、定期的に糞便検査をして、駆虫剤を与える、

④感染症を予防し、病気に対する抵抗力を高めるため、ワンチク注射を行う、

という4点がポイントとして挙げられる。


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2005/10/07

上野動物園のお医者さん③

ゾウ、ライオン、キリン、サイ、トラといった大型動物を人の力で押さえることは不可能だ。そのため、動物園では、知恵を絞っていくつかの方法を開発している。

その1つは、スクイズケージと呼ばれるもの。ハンドルを回すと片面の壁が動く、特別製のケージに動物を入れ、片面の壁を狭めて動物を押さえて身動きできなくさせて、注射をする。これは、輸液のように大量の注射する場合や何本も注射をする場合に効果的である。

注射の量が少ないときは、付記や麻酔銃を用いる。動物園の治療は、麻酔をする機会が非常に多いが、大型動物を麻酔するクスリがニッポンでも使用できるようになったのは、ここ10年くらいだという。

吹き矢は、クスリの入った注射器を動物に目がけて飛ばして注射する。約1メートルの筒に注射筒を入れ、息を吹き入れて飛ばすので、肺活量のある人のほうが勢いよく飛ばすことができる。

麻酔銃は、圧縮ガスや火薬煮よって注射筒を飛ばすもの。圧縮ガスで注射筒を飛ばす麻酔銃は約10~12メートル、火薬を使う麻酔銃は最長100メートルの射程距離がある。

これらは、動物を麻酔するときだけではなく、抗生物質などのクスリを注射するためにも用いる。

成島さんは、駆け出しの頃、麻酔銃の引き金を引くタイミングがなかなかつかめず、「地面を麻酔してしまった」ことがある。自信を持って麻酔銃を打てるようになるには、たくさんの失敗を重ねなければならなかった。

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2005/10/06

上野動物園のお医者さん②

「動物病院のお医者さんは、小児科のお医者さんに似ている」と成島さんは指摘する。

「小さな患者さんは、体の調子が悪くても、どこがどういうふうに痛いのか、言葉で教えてくれないでしょう? お医者さんは、子どものつらい状態を見て、早く治してあげたいと思っていますが、子どもは何をされるかわからないので、恐怖心でいっぱいになって、診察を嫌がるのがふつうです」

成島さんのお子さんが、幼稚園のころ、子ども専門の歯医者さんにかかったことがあった。ふつうの歯医者さんとどのような違いがあるのだろうと、成島さんは、診察室をのぞいてみた。

すると、診察台に付いたネットに体を包まれ、診察台に寝かされた幼児が、治療を受けていた。口の中を治療しているときに、嫌がって暴れると、子どもが思いがけないケガをしてしまうかもしれない。そのような事故を防ぐため、
子どもが動かないようにネットで診察台にしっかり押さえているのだ。

さらに、子ども専門の歯医者さんの中には、白衣を着ない人もいると聞いて、成島さんは、「動物園の獣医師のやり方と同じだ」と納得した。

「動物園の患者さんは、治療に協力的ではありませんから、やむをえず、動物を捕まえて押さえつけて注射しようとすると、動物によっては、捕らえられること自体、大きなショックになる場合があるため、よほど気をつけないと、ショック死してしまうこともあります」

動物は、獣医師が、自分のことを治療しようとしているとはわからないから、必死で逃げようとする。抵抗されて、角や鋭い爪で獣医師がケガを負う危険性もある。

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2005/10/05

上野動物園のお医者さん①

動物と暮らしはじめたら、何でも相談できる動物病院を探しておきましょうとよく言われるけど、よい動物病院って、どういうところなの?
 
という質問を飼い主さんからよく受ける。私は、これまで、犬やネコだけでなく、爬虫類や小鳥の病院、動物園の病院など、さまざまな動物病院を取材してきたが、実際のところ、どんな病院がよい病院なのかは、患者さんである動物に直接訊いてみなければ、わからないこともある。

話すことも、自分の病状を訴えることもできない動物の命を託す動物病院は、人間でいうと小児科の病院のような存在かもしれない。動物にやさしい病院とは、どういうところなのだろうか?

そこで、創立120周年を超える東京恩賜上野動物園の中にある動物病院を通して考えてみたい。

上野動物園の動物病院では、4人の獣医師が、交代で動物園の動物たちの健康管理に当たっている。獣医師の成島悦雄さん(取材当時)は、町の動物病院の獣医師が着ている白衣を着用していない。

もちろん、手術のときは、滅菌した手術着を身につけるが、ふだんは、洗濯のいきとどいた水色のシャツと、同色のズボンの作業着だ。

動物園では、飼育係の人も作業着を着ている。動物たちにとって、飼育係の人は、食事をくれるよい人。しかし、獣医師は、突然、痛い注射をしたり、検査と称して押えつけたりするので、動物にとって歓迎すべき人ではない。

白衣イコール悪い人と、動物たちが思い込んでしまうと、白衣を見ただけで、気が動転してしまう。それでは、動物の健康状態を正しく診断することはできない。

動物たちによけいな心配をかけないため、獣医師の成島さんは、白衣を着ないのである。

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