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2009年3月

2009/03/31

「Shi-Ba(シーバ)」2009/03/29号 (現在発売中)

●日本犬マガジン「Shi-Ba(シーバ)」2009/03/29号 (現在発売中) Vol.46

好評連載☆2本

吉田悦子のニッポンの犬探訪記~秋田犬~
意思強固にしてあふれる男気
人もこういう生き方をせねば

真・ハチ公物語 ハチ公の飼い主

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●「ねこダマシイ」2009/03/30号 (現在発売中) Vol.2

連載☆吉田悦子のニッポンの猫探訪記
九州・相島にノラネコロジストを訪ねて

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2009/03/11

映画「遭難フリーター」監督にインタビュー

月刊「ジャーナリスト」2009年2月号に、映画「遭難フリーター」監督・岩淵弘樹さんのインタビュー(吉田悦子)が掲載されました。
みんなが「遭難」している時代 
http://jcjkikansh.exblog.jp/11007751/

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2009/03/09

吉田悦子のニッポンの犬探訪記25 甲斐犬

災害救助犬訓練で培った信頼関係は大きな財産

社会の役に立ちたいと山下さんは、甲斐犬・すぐりとともに災害救助犬の訓練に打ち込んだ。犬本来の意欲を活かしながら、確実に指示に従わせるトレーニングは、その指導方法の原点となった。日本犬初の災害救助犬として活躍するすぐりとのたゆまぬ訓練の日々やシビアな災害現場での活動経験は、すぐりが現役を引退した現在も深い信頼関係として、大きな財産となった。

すべての犬がピーピーおもちゃが好きと限らない

長野県小諸の獣医師・山下國廣さんの相棒、甲斐犬・すぐりは12歳。浅間山を臨む、豊かな田園地帯にある自宅の南向きの庭に、ゆったり横になっていた。

日本犬初の災害救助犬として活躍したすぐり。現役を引退した現在、家庭犬のしつけ指導や問題行動の治療に携わる山下さんのアシスタント犬をつとめている

まんまるのつぶらな瞳が印象的。いつでも、大きな目で山下さんとアイコンタクトをとり、指示どおり、横にぴたっとつけをする。

たくましい甲斐犬のオスで、堂々と落ち着いている。けれど、威圧感はない。誰にでも、からだを撫ぜさせてくれる。やさしくおだやかな、すぐり。

首には、トレードマークの小さなカウベル。力強くぴんと立った太いしっぽ。全体にふっくらと見えるのは、氷点下の寒さにも耐えられる下毛が密生しているため。若い頃から、アジリティやフリスビーや犬ぞりなどで鍛え上げた、引き締まった肉体は健在だ。

ふだんは、庭に掘った穴に横になっていることが多い。へそ天で爆睡していることもあるとか。訓練やしつけのインストラクター犬として、きりりと引き締まった時と、緊張の解けたふだんとのメリハリがついているのだろう。

そんなすぐりを前に、カメラマンのS氏が、撮影のための機材をゆっくり出し始めた。神経質なタイプだと、何をされるのだろうと不安になって、あとずさりすることも少なくない。でも、好奇心旺盛なすぐりは、「それ何?」とカメラに顔をすり寄せるように覗き込む。カメラマン氏は、そんなすぐりの鼻先に、挨拶がわりに、持参の音の鳴るおもちゃを差し出した。そして、「キュウ!」と鳴らしてみせた。

その瞬間、からだをびくっとさせたかと思うと、すぐりは、ゆっくり横に移動し、数メートルの距離をとった。

 山下さんが、すぐりを呼び寄せると、元の位置に戻ってオスワリをする。が、様子がすこしおかしい。そのうち、すぐりの前足が小刻みに震えだした。

「実は、すぐりは、音にとても敏感です。でも、ここまでイヤがることは滅多にありませんから、ぼくもびっくりしました」と山下さんが説明する。

「興味を持って好意的に近づいたのに、いきなり顔に向けてイヤな音を立てられたので、驚くとともに、裏切られたような、何をされるかわからない、という感覚になってしまったのだと思います。こうした反応は、すぐりに限らず、日本犬ではそれほど珍しいことではありません。すべての犬が、音の鳴るおもちゃが好きとは限らない、ということですね」
 驚かせてしまってごめんね、すぐり。でも気を取り直して、仲良くしてね。すぐりの背中をなでながら、私は語りかけた。安心したのか、すぐりから、怯えた様子は消えていた。

もう一度、山下さんに呼ばれたすぐりは、大きなまなこをくりくりさせ、その膝の上に抱かれて、いっしょの写真に納まった。

日本犬の中でも甲斐犬は、とくに繊細だ。神経質で警戒心が強いため、初心者には扱いづらいとか、トレーニングが難しいと思われていることも多い。なかには、気性が荒いため、人間が上位であることを実力行使で教えることが必要だという意見すらある。
「日本人は日本犬と何千年も昔からともに暮らしてきました。いくつかのトレーニングで思うような結果が出ないからといって、日本犬はトレーニングが難しいとレッテルを貼ってしまうのではなく、日本犬に合った長所を生かすトレーニングを工夫していきたいと思います」と山下さんは語る。

子どもを育てるのと一緒で愛情を持って根気よく
 山下さんが「これだけはやめてほしい」ということがある。飼い主がリーダーであると認識させるトレーニングと称して、犬のマズルを強く握って叱ったり、両頬をつかんで睨みつけたり、ひっくり返して押えつけたりすることだ。かえって、人間に対する不信感から深刻な攻撃性を引き出してしまう事例が多いという。

「まず犬と人が、できるかぎり対立関係を作らないように、飼い主と犬の目的が一致するよう楽しくやること、それがトレーニングの基本です」
 一般にしつけのトレーニングのため、食べ物を用いる場合も多い。けれども、日本犬の場合、気が散るような環境では、食べ物はもちろん、おもちゃやボールに興味を示さないことがある。通常なら喜んで食べる犬でも、単調なトレーニングを繰り返しさせたり、気が乗らないのに食べ物を用いてやらせていると、満腹でなくても食べ物を拒むことがある。

「食べ物だけに頼ってトレーニングするのではなく、犬自身が楽しく意欲的に、達成感を持てるように工夫することが日本犬のトレーニングには不可欠です」と山下さん。
「日本犬は、自然の中で、たとえ野生化しても生きていける高い能力を持っています。自立性の高さ、危機を回避する能力、食料を獲得する能力、状況を判断する能力など、野生動物が本来持っている性質をそのまま保持しています。これらの特性を長所として生かしながら、飼い主との共通の価値観のもとに育てるには、画一的なトレーニングよりも、日常のきめ細かな接し方が重要です

たとえば、動物同士が、動かずにじっと見つめ合うのは、基本的には敵対関係です。どちらかが先に視線をはずすことで闘いは回避されます。でも、互いに譲らずに見つめ続ければ、ほとんどの場合はケンカになります。

多くの犬は、家畜化の過程で警戒心を薄める方向で選択繁殖されてきました。でも、日本犬は、番犬や獣猟犬として、野性動物の持つ警戒心をかなり維持しています。日本犬にとって、相手に見つめられ続けることは、食べ物よりもずっと強く作用するのです。

神経質な犬に、じっと見すえるようなアイコンタクトをとることは、ヘラヘラして能天気な犬に、いきなりチョークをかけるよりも、ずっと強烈なバツかもしれません。犬にとって、何がうれしくて、何がイヤなことなのか、1頭1頭見きわめながら、犬の立場に立ったトレーニングの方法を組み立てるべきでしょう」

あるとき、「ボールを投げて犬に『持って来い』をさせて運ばせても、こちらに近づくと、すぐ手前にボールを落として、手渡しができない」という問題を飼い主から寄せられた。

すぐりも、「持って来い」は喜んでやるし、きちんと手渡すこともできる。でも、持ってきたときにすぐボールを受け取らないと、地面にぽとりと落としてしまう。「渡せ」といえば、もう一度ボールを拾って手渡してくれる。こちらが、すぐに受け取る体勢でないときは、ずっとくわえている必要はない、と判断する。
 犬もオトナになると、なるべくムダなことはしないようになる。とくに用事がなければ1日中寝ているといったことは、古くからの犬の形質を受け継ぐ日本犬によく見られる。

ある甲斐犬の飼い主は、「甲斐犬は性質がきつくなるから、できるだけ厳しくしつけよう」と思うあまり、小さいころから叱ってばかりいた。「ダメッ!」「こらっ!」「いけないっ!」のオンパレードだった。

山下さんに出会ってから、「ダメッ」といわずに「違うよ」と声をかけるようになった。「おすわり」といったのに「ふせ」をした、「まて」といったのに動いてしまった。そのたびに、「NO」「いけない」と大きな声を出していたら、犬は萎縮してしまい、いつしか飼い主から心が離れてしまう。

場合によっては、反抗的になったり、意固地になるかもしれない。びびり屋や繊細な犬の場合、大きな声で叱らず、「違うよ」と声をかけるようにすると、飼い主の意志が犬に伝わりやすい。

「一方的に叱るのではなく、犬にも少し考える時間を与えるといいでしょう。時間はかかるかもしれないけれど、ここは伏せるところか、待てなのか、と考えさせるようにすると、その都度、的確な状況判断ができるようになります。もともと日本犬は、自分で考え納得したうえで行動できる犬種です」

すぐりは、甲斐犬愛護会東京支部の故・柳沢琢郎さんから譲り受けた。「賢い犬が生まれたら頼みます」という山下さんに、「おもしろい犬が来たぞ」と連絡が入り、生後2ヶ月で手に入れた。もともと静かでおとなしかった。

甲斐犬は、なかなか他人になつく犬ではないので、子犬のころから多くの人や犬に会わせ、情緒豊かに育てた。

「できるだけさまざまな指示を教えたいと、すぐりの自発的な行動について、可能なかぎり、すべてに号令をつけて、意味を演出しながら定着させるようにつとめました」

すぐりの特性をうまく活かしながらトレーニングを進めたところ、誰に対してもやさしい穏和な犬に育った。勘のいいすぐりは、なんでもすぐ体得した。その高い知性と身体能力を生かそうと、訓練競技会、アジリティー、犬ぞり、狩猟など、山下さんはすぐりとともにさまざまなことに挑戦。すぐりと社会の役に立ちたいと、災害救助犬の訓練にも打ち込んだ。すぐりが3歳のとき、災害救助犬に認定された。

災害救助犬は、鋭い嗅覚によって、災害現場で瓦礫や倒壊家屋の下に埋もれた人を探し出したり、山岳遭難などの行方不明者を探す。指導手の指示に従い、果敢に人のにおいを探しまわり、においをかぎつけたら吠えて知らせる。救助犬に適しているのは、他の人や犬に友好的で、かつ大胆で行動力のある犬。臆病な犬は向いていない。

ある捜索訓練に、ラブラドール・レトリーバーやジャーマン・シェパード・ドッグなどの大型犬に混じって、1頭の甲斐犬がいた。シェパードやラブにもひけを取らない素晴しい動きで、「よくぞここまで甲斐犬を訓練したものだ」と訓練士の間で評判になったという。それが、すぐりだった。

救助犬の訓練をする中ですぐりとともに培ってきた、犬本来の意欲を活かしながら確実に指示に従わせるトレーニングは、山下さんの指導方法の原点となっている。また、日々の弛まぬ訓練やシビアな災害現場での活動経験は、すぐりが現役を引退した現在も、深い信頼関係としてお互いの財産になっている。

「犬のトレーニングは、人間の子どもを育てることと一緒で、愛情を持って根気よくしつけていくことです。しつけの基本は、して良いこと、悪いことの区別をしっかりと覚えさせること。肝心なのは犬に信頼感を抱かせることです。人との絆ができて初めてこちらの指示を聞いてくれるからです」

日本犬初の災害救助犬が誕生したのも、山下さんとすぐりとの深い絆があったからこそ。我慢強いすぐりは、和を大切に、弱いものにやさしく、その場の空気を瞬時に読み取り、的確に判断して行動することができる。

「背中のジッパーを下げたら人間が入っているんじゃないかと思うくらい、とても人間くさい。ぼくより人間ができているなあと思うことがあります。わが犬ながら、尊敬しています」

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