愛犬との暮らしを通して体得した「備えあればの老犬生活」とは?
「犬との暮らしは十人十色。自分が出来る限りのことをやってあげれば、犬もその思いをきっと感じ取ってくれますよ」と、優しい笑顔でおっしゃる吉田悦子さん。
犬との生活を選ぶと、必ず避けては通れないのが“老犬”との暮らし。秋田犬のジョン万次郎、迷い犬だったジョニーとの別れを経験した吉田さんに、愛犬と最後まで快適に楽しく暮らすための心得を伺いました。
聞き手:松原 賢(ONE BRAND)/写 真:田中瑞江(ONE BRAND)
インタビュアーの大先輩に聞く
松原 本日はお忙しい中、ありがとうございます。作家でもあり、ジャーナリストとしても活躍しておられる吉田さんに、プロにお話を伺うということで緊張しております。
吉田 いえいえ、こちらこそよろしくお願いいたします。
松原 まず、今日の本題からは反れるのですが、一つお聞きしたいことがありまして・・・
吉田さんのお仕事の中で取材というのは非常に重要かと思うのですが、ONE BRAND WEBのオリジナルインタビューの第一回目ということもあり、取材対象にお話を伺う際の心構えや、アドバイスをご教授頂ければ幸いなのですが。
吉田 お目にかかる前に、お相手の情報をできるだけ集めておくというのは基本でしょうけれども。松原さんもWEBや雑誌で取材されることが多いでしょう?
松原 確かに取材する場にはよくいました。前職では映像制作をしていたので、世界遺産とかお城とか固めな作品を作っていまして。でもインタビュアー役というのはあまり経験が無いので。
人との出会いが財産に
吉田 この記事も松原さんが?(本誌連載中の『A First Dog & Mr. President ~社長が紹介する“我が社のファーストドッグ~』を指差しながら)
松原 いいえ、これは別の編集者の担当なのですけれど。でも犬が切り口だとお話を聞き易いというか、取材NGという事があまり無いですね。
吉田 そうですね。経営者の方にビジネスについてうかがうと、どうしても内容が固くなりがちですけれど、ペットのお話だと、にこにこと眦が下がるというか。
取材する側としても掲載して喜んでいただけると、嬉しいですよね。そうした一期一会の積み重ねが、やり甲斐に繋がっているのだと思います。
松原 吉田さんのホームページを拝見すると、編集記者時代より1日1人に取材することをモットーに、これまでに、数千人に取材を実践とあって。凄いなと思いました。
吉田 未知の方にお会いして、お話を伺うのって楽しいですよね。その人ならではの人生経験に、思わず聞き入ってしまいます。
松原 これは編集者だけでなく、営業マンにも当てはまる極意かもしれませんね(笑)
吉田 特に若い頃は、お話を伺う相手が皆さん年上で、さまざまな分野で活躍されている人生の達人みたいな方が多かったですから、とても勉強になりました。
フリーになって10年以上になりますけれど、公私ともにお付き合いのある方がたくさんいらっしゃいます。そうした人との出逢いが、いまの私の財産になっていますね。
松原 見習いたいと思います。
犬をテーマに書くきっかけ
松原 そんな中で犬をテーマに書かれることになったのは、ご自身が犬を飼っていらっしゃった事が大きいですか?
吉田 そうですね。学生時代の友人が(超有名犬雑誌)A誌の創刊スタッフで、「連載を担当して」と声を掛けられたのが、きっかけです。ただ当時は、私も出版社に勤めていたので、土日に取材するなど、記事を書くのはアルバイト感覚で始めました。
松原 なるほど。犬について勉強され始めたのはそれからですか?
吉田 当初から一飼い主の延長線上で取材していましたね。日本犬を連載で取材するようになって、日本犬六犬種のルーツを探るため、その産地へ取材を毎月続けるうち、結構コアというか、ディープな世界に足を踏み入れてしまったというか(笑)。
ペットというより、猟犬としての犬、生きものとしての犬として一途に愛情をそそいでいる飼い主さんが多かった事は非常に影響を受けましたね。
松原 そんな人と犬の関係が本来的なものだったんでしょうかね?
吉田 ただ猫かわいがりするのではなく、犬格を尊重するような、つき合い方もあるんだなと。こういう人と犬との絆もアリだなと思いました。
多面的な顔を持つこと
松原 吉田さんは非常に幅広く活躍されていて、作家、エッセイスト、ジャーナリストの他にも俳人や江戸ソバリエという肩書きもお持ちですし・・・
吉田 一見、雑多なようですけれど、いずれも繋がって、私の中で渾然一体となっているんですよ(笑)。例えば、好きな犬と俳句で「わん句」とか。
毎月、「お江戸蕎麦散歩」と称して、お蕎麦の食べ歩きをしているのですけれど、街歩きをする中で俳句もつくれますし、道行く犬にも目がいきます。格好のフィールドワークです。
松原 なるほど。何か生み出すということでは、すべてが役に立っているという事ですね。
吉田 松原さんは、映像の分野から入っていらっしゃって?
松原 そうなんです。ひょんなことから、犬の世界に、雑誌の世界に入ることになりまして。
創刊時から連載頂いている南村友紀さん(KitchenDog!)のドキュメンタリーを撮らせて頂いたのがきっかけで。取材させて頂く中で目から鱗なことがいっぱいあって、これは何か発信したいなと。
吉田 なるほど。ONE BRANDは創刊されて・・・
松原 3年目に入りました。
吉田 続けていくことって大変ですけれど、継続は力なり。大切ですよね。
松原 続けていくことで、いろんな方に興味をもって頂けると嬉しいですね。色んな方にもお目にかかれますし。
最新刊『うちの犬(こ)がぼけた』
松原 さて、吉田さんのご本『うちの犬(こ)がぼけた。備えあればの老犬生活』(幻冬舎文庫)ですが、書かれたのは少し前のようですね。
吉田 そうですね、2002年に出版したものに加筆修正して文庫化されました。
松原 この本に出てくる吉田さんの愛犬ジョニー君ですが、今もご一緒に?
吉田 この本を書いた当時、15歳だったジョニーは、その後18歳の天寿を全うしました。
松原 そうでしたか。吉田さんはジョニー君とその前に飼われていたジョン万次郎君の2頭を見送った経験をお持ちなんですね。
老犬をテーマに、特に「ぼけ」に注目されたのはそういった経験からでしょうか?
吉田 今でこそ人間でも認知症の研究がすすんでいますけれど、当時は、「犬もぼけるの?」という声が多かったですね。私は、犬も人間も、同じ生きものとして老いていく過程は同じだと、一緒に暮らしていて感じていました。
そこで獣医師さんに伺ったら「犬もぼけますよ」と。生活習慣病と同じで、放っておくとドンドン進行してしまう。でも、人間と同じで、ぼけないようにする努力次第で、ぼけずにいられると。
うちのジョニーは、おかげさまで、とくに病気を患うこともぼけることもなく、食欲もありましたし、最後まで意思疎通もしっかりしていました。
松原 ご本を読ませて頂いても感じましたし、お話を伺っていても思うのは、犬の変化に早めに気付いてあげられるような関係性を作っておくことが大事なんですね。
犬も人も老いていくのは同じ
松原 人間の痴呆と犬のそれはメカニズムは違っていること、老化と共にすべての犬がぼけに向かっちゃう可能性があると書かれていて非常に興味深かったのですが。
その違いはどういうところなのでしょうか?
吉田 残念ながら、まだ科学的にはっきり解明されてはいないようです。犬の脳にも、歳をとるとシミのような黒い影があちこちに(これは人間でもそうなんですけれど)現れて来ることはわかっています。
松原 犬も同じように歳をとればぼけもするし、様々な症状が出てくるんだよと。
吉田 そうなんです。そのことを人間がわかっていないと、犬が急に言うことを聞かなくなったとか、元気なのに呼んでも来ないとか、ぼおっとして反応が無いということで、飼い主さんが「うちの犬、どうしちゃったの?」とパニックを起こすこともあります。
でも、心構えがあれば、これも老化の兆候なのかなと気付いてあげられるでしょう? 早めに獣医師に相談するなど対処の仕方もあると思います。
松原 犬はご本にもあるように、時間が4倍速ですからね。(参照、表1)
ずっとカワイイままでも、あっという間に老化しちゃっていることもあるんですね。
人間 |
1ヶ月 |
3ヶ月 |
6ヶ月 |
1年 |
3年 |
5年 |
7年 |
9年 |
11年 |
13年 |
15年 |
17年 |
犬 |
1歳 |
5歳 |
9歳 |
17歳 |
28歳 |
36歳 |
44歳 |
52歳 |
60歳 |
68歳 |
76歳 |
84歳 |
犬の幸せって何でしょうか?
松原 犬をぼけさせないために出来る事はご本には色々と書かれているのですが、読ませていただくと、それって『犬にとっての幸せ』とイコールなのかなと思うのですが。
犬を飼っておられた経験もお持ちで、犬やその飼い主を取材する側でもある吉田さんが考える『犬の幸せ』ってどういうものでしょうか?
吉田 うーん、一概に、これが幸せとは決めつけられないですよね。10頭の犬がいれば10通りの飼い主さんとの暮らしがあるわけで。「これじゃなきゃいけない!」と押し付けるようなことは、本の中でも言っていないんですけれど。
松原 そうですね。ただ犬は生活環境の整備が自分で出来る訳ではないし、犬自身が選ぶことには限りがありますから。飼い主が何を提供してあげられるかが重要なのかなと。
吉田 老犬介護も、あなたが出来る範囲でやってください、という事なんです。飼い主さんが無理をすれば、長続きませんし、ストレスがたまって倒れてしまうかもしれない。それでは、犬だって大変なことになります。
私は、老犬になったジョニーがそこにいてくれて、食べて、寝て、おしっこして、うんちして……ただそれだけで幸せでした。犬も人も幸せな関係って、どちらも無理なく、自然でいられる、そんな感じじゃないかしら。
松原 ペットロスで苦しまれている飼い主さんも多いと聞きますが・・・・
吉田 そうですね。なかには1年以上、なにをする気力が起こらないという深刻な方もいらっしゃいます。
私は、心から世話をして、最期の瞬間も一緒にいられましたから、ジョニーが亡くなって、たしかに悲しかったけれども、不思議と安堵感に包まれました。看取ってあげられて、ほんとうに良かったなと。ですから、もう犬を飼いたくないとも思っていません。
松原 確かに残された側がいかに、心置きなくやってあげられたかが重要ですね。
吉田 あの時にこうしてあげられれば・・・と後悔していらっしゃる飼い主さんもおられますけれど、私は言うんです。「あなたが精一杯やってあげてたことは、誰よりも愛犬が分かってくれていますよ」と。
松原 飼い主さんが出来る限りのことをしてあげることが一番ですね。
犬としっかり向き合っていくこと
吉田 犬は寂しがりやで甘えん坊なんですよ。その度合いは色々ですけれど、元々群れを成して生きていた生きものですからね。
人間もそうですが、若くて元気なときはともかく、特に、老年期にひとりぼっちにされちゃうと、とても心細くなりますよね。「いつも一緒だよ」と心のメッセージを送っていれば、犬にも必ず伝わって、幸せを感じられると思うんです。
松原 伝わるものですか?
吉田 もちろん、伝わりますよ。それを受け止めている犬は、歳を重ねても、気持ちに張りがあるというか、シャンとしていられるんじゃないかなあ。
ジョニーも「今日はお留守番、お願いね」と言いきかせて出かけると、ちゃんと待っていてくれましたし。老犬になるほど、判断力や洞察力が磨かれて、お利口になっていくと思いますね。
松原 色々と経験を積んで・・・老犬力がついていく?
吉田 そう、忍耐力もついていきますよ。きちんと人間と犬との関係を築くことができていれば、こちらの気持ちを読み取ってくれますからね。
松原 伝わるものなんですねぇ・・・
吉田 そうしてお互い思いやっていると、老犬との暮らしはとても楽しいですよ。
吉田さん琉、犬選び
松原 吉田さんが犬を選ぶ際の基準とかありますか?
吉田 たくさんの犬種がありますが、それぞれに特徴があって、良いところがありますからね。知れば知るほど奥が深いですよね。最初に、一期一会というお話をしましたけれど、人も犬も選ぶというより、結局、めぐりあいだと思うんですよ。とくに犬の場合、ひとつの命を丸ごと引き受けるわけですから、勇気と責任が不可欠ですよね。
まあ、私は、あまり賢い飼い主ではありませんから(笑)、利口すぎる犬はどうかなと思いますね。なんでも思いどおりに動く、スマート過ぎる犬だと、逆にこちらが疲れちゃうような気がします。少しおバカなところがあるくらいの犬のほうがカワイイかな、と思ったりします。
ジョニーは、とてもバイタリティーがあって、しかもフレンドリーな犬だったので、そういうタイプはいい相棒になるなと思いますね。
松原 それは犬種によって違うものですか?それとも育て方なのでしょうか?
吉田 やはり犬って、人間によって変わりますよね。どんなに素晴らしい素質を持った犬でも、飼い主次第で獰猛で危険な犬にもなっちゃうし。人間の子供と同じで、初めから悪い犬なんてあり得ないと思います。
松原 犬の問題行動で悩んでいる人は、まず自分の行動から見直すことも大切・・・かな。
吉田 そういう意味では、犬は飼い主の鏡のような存在ですよね。こちらがイライラしていると、犬もストレスがたまります。おっとり穏やかに接していれば、犬もそうなります。
松原 犬の顔が飼い主に似てくるとよく言われるのは、そういうとことなのでしょうね。
吉田さん流、犬選び
松原 次なる犬との暮らしを始められるご予定は?
吉田 あまり日本にはいない犬種なんですけれど、興味をひかれる犬がいるんです。
実は、すでにブリーダーさんにも仔犬の予約を入れてあります。年に1度の計画繁殖で今年の仔犬の飼い主はもう決まっているので、1年待ってくださいといわれているんですけれど(笑)。
長いこと日本犬の取材をしていますから、柴犬のように鼻のとがったりりしいタイプも大好きなのですが、その犬は、毛が長くて、鼻ペチャなんですよ。性格もぼおーっとしていて、どこかユーモラスなんです。
松原 個人的に鼻ペチャ大好きなので、飼われたら是非会わせて下さいね。
本日は色々と興味深いお話、ありがとう御座いました。
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