« ニッポンの犬探訪記 取材メモ | トップページ | 憲法27条1項 労働権 »

2006/06/04

憲法25条 食品安全

2005年12月12日、日本政府は、米国・カナダ産牛肉の禁輸措置を正式解除した。輸入再開に際しては、BSE(牛海綿状脳症)の原因物質が蓄積しやすい脊柱や脳などの特定危険部位を除去した月齢20ヶ月以下の牛であることが条件とされた。

しかし、2006年1月20日、輸入された米国産牛肉に特定危険部位が混入していたため、輸入再開からわずか1ヶ月で輸入禁止に。米政府のずさんな管理体制があらためて浮き彫りにされた。今回の輸入の再停止で、小泉政権の責任を追及する声と、米国に対する不信感はさらに高まっている。

そこで、台東区や墨田区の食品衛生監視員として、食の最前線で30年余り活動されている笹井勉さんに「食品衛生の現場の声」をうかがった。1945年生まれの笹井さんは、55年の森永ヒ素ミルク事件、56年の水俣病、65年の阿賀野川水銀中毒事件、68年のカネミ油症事件など、たくさんの食品公害を見聞きしてきた。70年に大学農学部を卒業後、東京都庁の食品衛生監視員として保健所に配属された。

保健所には、医師である保健所長をはじめ、暮らしと健康に総合的にかかわる専門職種が配置され、食品や環境衛生、感染症予防、栄養指導、精神保健など、その仕事は多岐にわたる。なかでも食品監視員は、飲食店営業などの許可・更新事務、食中毒予防対策、JAS食品衛生法にもとづく表示指導、食中毒・感染症発生時の調査・相談などが主な仕事。笹井さんの初仕事は、使用禁止になったチクロ(サイクラミン酸ナトリウム)入りの食品の回収だった。

食品公害問題を受けて、72年に食品衛生法が大幅に改正され、「疑わしきは罰する」が入り、一時規制が強化された。さらに、2001年のBSEの国内発生をきっかけに、食の安全問題に対する大幅な見直しが行われ、03年、食品安全基本法制定と食品衛生法の抜本改正が行われた。

国、地方公共団体、食品関連事業者等の関係者への責務と、消費者の役割について規定された食品安全基本法は、「国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下に、食品の安全性の確保のために必要な措置が講じられること」「このために必要な措置が農水産物の生産から食品の販売に至る一連の食品供給の行程の各段階で適切に講じられること」「内外の動向及び国民の意見に考慮しつつ科学的知見に基づいて国民への悪影響が未然に防止されるようにする」としている。

施策の策定においては、食品の健康への影響評価(リスク評価)、政策の選択、行政による規制(リスク管理)と専門家・行政・食品営業者・消費者が介しての情報交換(リスクコミュニケーション)という手法が新たに取り入れられた。

「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進につとめなければならない」とする憲法25条2項を受け、食品衛生法は、改正前の目的として「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与する」と明確に規定されている。

食品の衛生管理は、食品衛生監視員を中心とする、食品関係営業者に対する規制行政(厚生労働行政)が担ってきた。しかし、食品衛生法の改正作業の過程で、目的に「国民の健康保護」を入れる代わりに、憲法にある「公衆衛生」の文言が削除されそうになった。公衆衛生関係者の運動によってなんとか残ったが、「公衆衛生の見地から」とする憲法の精神からは、やや後退するのものとなった。「国が国民の健康を保護する」という路線から、行政が情報を提供し、意見交換をしながら「国民自らがリスクに対応していく」という、リスクコミュニケーションの推進が取り入れられたのである。

BSE問題はじめ、O157やノロウイルスなどの集団食中毒、食品会社による偽装表示事件など、食の安全を脅かす事件が多発し、緊急の課題になっている。輸入食品の増加など、輸出国を含めた生産地、と畜場や市場での衛生管理の重要性が増すなか、食の安全確保のためには、それぞれの関係者が、生産・製造・流通から最終の消費者のところまでの衛生管理、つまり農場から家庭まで(from Farm to Table)の衛生管理を徹底していくことが必要だ。

しかし、国としての「公衆衛生の向上・増進」を放棄してはならない。ところが、都は、保健所・保健相談所など28あったものを5ヵ所に統廃合しようとしている。「地域に密着した公衆衛生が必要不可欠なときに、人員削減や統廃合を進める石原都政や小泉政権は、時代に逆行している」と笹井さん。

牛肉を食べる、食べないはあくまで消費者の自由、とする意見もある。産地表示や危険部位の除去などが正しく行われれば、汚染リスクを回避できるはずだが、外食や加工食品について、どれだけの保証が得られるのだろう? 薬害エイズでは、薬害の事実を隠して、米国で使われなくなったHIV汚染非加熱血液製剤が日本に大量に流れ込み、多くの人がHIVに感染した。

|

« ニッポンの犬探訪記 取材メモ | トップページ | 憲法27条1項 労働権 »

憲法の現場」カテゴリの記事

コメント

てんこさん、トビーさん 初めまして

ご返信がすっかり遅くなりましたが
コメントならびに貴重なお話 ありがとうございます
これからもよろしくお願いいたします

投稿: えつか☆ | 2006/08/08 11:12

7月に「食中毒を防ぐ!家庭の調理・新常識110」(現代書林)が出版されました。モヤシがウンチほど汚く、シンクで洗うと菌で汚染されてしまう話や、カイワレ大根が菌の揺りかごで育っている秘密、キュウリが食中りの真犯人である話など、目から鱗の話が満載です。小さな子供や老人がいる家の主婦は必読と思いました。またこれから結婚する人も読むべきと思います。

投稿: トビー | 2006/07/22 18:18

官僚はすぐ隠します。
エイズでの厚生官僚の行動は水道水にも繰り返されていると思います。
『財界展望』が水道水の中にはノロウイルスがいることを、連載してたけど
やっぱ、本当のようだ。
http://www.zaiten.co.jp/mag/0605/index.html

3月3日 にNHKが午後7時のニュースで「全国で初めて東京都が水道水のノロウイルス調査を行うことを報道。

翌日、朝日新聞も下記のように報道した。
水道水のノロウイルス調査へ 東京都が来年度から
2006年03月04日10時07分
 冬の「おなかのかぜ」の主犯格とされるノロウイルス。水道水に含まれていないかの実態調査に東京都水道局が来年度から乗り出す。ウイルス対象の上水道の調査は、全国的にも珍しい。
 大腸菌や重金属の監視をしている水質センター(東京都文京区)が、川から取った水や、浄水場での各処理段階での水について、ウイルスの有無や濃度を調べる。検査技術習得などを経て、年内には数カ所の浄水場で検査を始める予定だ。

投稿: てんこ | 2006/06/05 11:27

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 憲法25条 食品安全:

» 「天の魚」復活プロジェクト趣意書 [天の魚プロジェクト]
ひとり芝居「天の魚」復活に向け、正式なプロジェクト趣意書ができあがりました。 公式サイトにも載せましたが、ここにもアップしておきます。 詳細は公式サイトもご参照下さい。 な [続きを読む]

受信: 2006/06/09 17:17

« ニッポンの犬探訪記 取材メモ | トップページ | 憲法27条1項 労働権 »